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30代が英国でデータサイエンスを学ぶ

特に説明はございません

留学記③ロンドンで絡まれて2

前回からの続き。



 こちらに来てからしばらくの間は無事に過ごしていたのだが、とうとう先日、ロンドンで絡まれてしまった。諸事情により学生寮に入れなかったため、こちらでの住居は現地の不動産屋を通じて自分で契約している。都会の方が安全との私の考えに基づき、日本人の多い地域や、静かな住宅街ではなく、夜でも人通りのある地域に家を借りた。その日は、いつものように大学からの帰り道を歩いていた。すると、駅の近くで突然、「お金を恵んでほしい」と話しかけられた。曰く「初めてイギリスに来て、お金が足りなくなったので、電車賃だけくれないか」と。英国外出身であることが私にもわかる訛りのある英語で話しかけられた。今思い返せば、この時点で無視して歩き続けるべきだったのだが、この時は足を止めてしまった。「何故お金がないのか、電車賃だけ渡して大丈夫なのか」といったことをこちらから質問した。すると論理的に破綻したような説明をし始めたため、断ってそのまま去ろうとしたところ、今度は神様が云々と言い始めた。昔テレビで見た、話しかけて気を引かせたところで、鞄を盗んだり、鞄を開けて財布を盗んだりする窃盗団の可能性があると思ったので、バッグを抱え直し、視界から外れないように警戒しながら聞いていた。その間も「神様が〜〜〜」としつこく言うので、嘘はやめてくれと言って、そのまま去ろうとしたが、今度は上着の襟の辺りを掴んできて、無理矢理止められてしまった。


 そして、私がお金を渡さないとわかったからだろう、日本人でも理解できるような罵声を浴びせてきた。ここまでのやりとりは時間にして10分も掛かっていないのだが、汚い言葉で罵った後に「時間を奪ったんだから金を寄越せ」というようなことを言われた。幸いにして、周りには人がたくさん居たし、明らかにナイフや危険物を持っていなかったので、私の襟を掴んでいた腕を振り払い、「絶対にお金は出さない」と言い捨てて、歩き始めた。もちろん向こうも少し追いかけてきたのだが、途中で諦めて雑踏に消えていった。


 これは自分の危機管理能力の低さを痛感する出来事であり、この経験から学んだことが、その後別の場面で役立ったので、結果としては良かったと思っている。あくまで結果論であるが。
 そして、周りに人がたくさん居るような都会だったから、私も安心できていたので、都会に部屋を借りたのもあながち間違いではなかったと思っている。これが、人通りのまったくない場所であったらどうなっていただろうか。


 ただ、今回のことで少し気になっていることがある。それは、神様が云々と言っていたのに、お金をもらえないとわかった瞬間に罵声を浴びせてきたことだ。私は仏教徒なので、他宗教のその人の感覚はわからないし、それに、仏教徒と言っても、死んだらお寺のお墓に入る、という程度のものであり、敬虔な信者ではない。クリスマスも祝うし、神社にも初詣に行く。そんな私でも、今まで育った環境の感覚からすると、その人が神様を持ち出して人を騙すのはどうにも受け入れ難いものがあった。
 日本でも、息子や孫を装って、老人からお金を騙しとる詐欺が発生しているし、神様に祟られると嘘をついて騙そうとする人が居ることも知っている。その場合、騙す側の人間は、神のことなど、なんとも思っていないのだろう。世の中の秩序ということに対しても、なんとも思っていないのだろう。ただ、今回私にお金を寄越せと話しかけてきた人は、その時の10分程度のやり取りの中で明確に某宗教の信者であることがわかった。そういう人が神様を持ち出してお金を貰おうとすることに、なんとなく悲しい気持ちになった。


 私もいい歳のオジさんなので、たった一人の例を以てその所属する集団全体の特徴であると考えるほど若くはない。それに、何処の国に行ったって悪い人間はたくさん居る。もっと身近に考えれば、1つの会社の中だけを見たとしても悪い人間は居る。ただ、いずれ自分が本当に困った時に、支えになるかもしれないものを、自ら冒涜するような行為に寂しさを覚えたのだ。宗教のような大きなものでなくても、普段親切にしてくれた友人や、世話になった恩人、また将来支え合っていくかもしれない人に対して、裏切るような行為をしているのと同じようなことではないかと感じてしまった。


 世の中は厳しい。普通、自分の生活を守ることだけでもとても大変だ。人を騙すような人間もたくさん居るし、歳を取るたびに心が荒んでいくのを感じる。それでも、裏切るような行為をしてはいけないものを簡単に裏切ると、後々さらに厳しい状況になっていくのではないか、そういったことを改めて考えさせられた。